随所に散りばめられた「小野不由美節」に震えた 『屍鬼』を彷彿とさせる物語
読みましたか?! 私は、読みました!!! この記事は、ネタバレ有の『白銀の墟 玄の月』全4巻の感想です。
育児中ということもあり、最近長編を一気に読む時間も体力もなかったのですが、十二国記新刊、やはり力をもつ物語は偉大です。久々に没頭しました。
全体を通して
1巻でスムーズに読者を十二国記の世界に戻してくれた小野不由美さんの手腕にただただ平伏すのみ。(長編から離れていた私をもぐーーーっと入り込ませてくれた。)
李斎と泰麒と同じ視点で、物語に慣れてきた頃、2巻で急に読者は手を離されました。
李斎と泰麒が別行動するとともに、読者も気が付けば泰麒の気持ちが分からなくなっていることに気が付きます。ここのあまりの自然な突き放し方に、これまた、脱帽。。。
泰麒は我ら(読者)とともにあったのでは…という気持ちが、作中の登場人物と重なって、不思議な読後感。
あと、「ぽう」という鳩の鳴き声が怖い。うーん、怖い…。
そして、そして、阿鼻叫喚の3巻。
泰麒が頑張っております。なんだろう、あの頼りなげだった幼子ではもうないのね!!! 周りの協力者も増えてきた! と希望を感じさせておき…。
3巻から4巻にかけて、希望からの、ここまでしても、やはりだめか…のアップダウンが大きくて気持ちが千々にちぎれた。
4巻はああ、小野不由美節だ…。ご都合主義ではない、歴史の残酷さ、戦のリアルさ、すべてが明らかにされない現実、人は死ぬ…。でした。
あと、みんな思ったと思いますが、残り100ページ辺りで、「これ、終わるんだろうか…」「まだ英章が出てきていないぞ」と考えましたよね。
あの時は、早く結末を知りたい・この至福の読書を終えたくないという狭間で揺れていました。
小野不由美さんの文章の美しさを改めて感じた作品でもありました。残酷で美しい文章の筆頭『屍鬼』を彷彿とさせました。
心をつかまれた一文と心が乱された一文
今回、私が一番打ち震えるえた文章は、
『白銀の墟 玄の月』第3巻p.336
「その供物は、正しく送り手から受け手へと辿り着いた。深い思いによって流されるささやかなそれが、まさしく王を支えている。
――送ったほうも、受け取ったほうも、それを知らない。」
ここは、本当に、「ああああ」となりました。友人は、エクスタシーと申しておりました。
王である驍宗でさえも、俯瞰した目線。この物語の冷静さを感じる部分です。
さて、次に、乱された一文ですが、
『白銀の墟 玄の月』第4巻p.427-428
「だが、戦いにおいて多くの犠牲は、目に見えない場所で起こるのだ。いつどうやって死んだのかは分からない。死んだ、と伝聞にせよ確認できた朽桟や余沢のような例はまだ救いがある。夕麗、朽桟の息子はただ姿を消した。そして――静之も。」
終盤、驍宗の処刑場でも会話をしていた静之の生死不明がこのように冷静に文章にされるところに戦のリアルを感じました。生きているのか死んでいるのか分からない状況に、心に重しが乗った気持ちになります。
2020年刊行予定の十二国記短編集が待ち遠しい
今回の戴の物語の補完があればいいなあ~と思います。
小野不由美さんの読後感がよいものをお探しなら『営繕かるかや怪異譚』がオススメです。
今2巻まで出ております。ホラーよりですが、淡々としていて古典を読んでいる気持ち。
家に関する霊障を家の営繕でなんとかするという話です(大雑把すぎますが)。
あと、『十二国記』好きな方、以下の『薬屋のひとりごと』もお試しあれ~
【30代主婦が夢中になる漫画と小説】『薬屋のひとりごと』『涙雨とセレナーデ』